Someone who crafts "qualia".
「qualia-glassworks」は、岐阜県美濃加茂市・私たちのギャラリーからほど近い、住宅街の一角の静かなエリアにある。インダストリアルな印象の工房兼住居は二階建てで、庭に面した一階がスタジオになっている。作業場には自作の道具や作業台が並び、様々な形をした鉄製の道具類、床を這うオレンジ色のコード、業務用の扇風機など、置かれているものはどれもこざっぱりと無骨なデザイン。一年中ガラスを溶かし続けているというアメリカ製の溶解炉は大きく、たくさんの量を生産することができる。
高温の炉で溶かされたガラスを竿に巻きつけ、息を吹き込み、成形する。柔らかい素材がみるみる形を変え、全身を使いリズミカルに作られていく工程は見ていて飽きない。彼女の作るものは、シンプルで飾らないものばかりだが、ごまかしの効かない技術と精度が必要なものだ。
作品のラインアップは、独立当初からあまり変化がない。そのことについてたずねると、たくさんの種類を作るよりも、良いと思うものができたら、それをどんどん作り重ねていくのが自分のやり方だと言う。同じ作業を重ねる中で、ここをほんの少し薄くするとか、広くするとか、もっとシャープにするともっと良くなる、そういうことを繰り返す方が、種類を増やすことよりも大事だと考えている、と。そう聞いて、この、非常に地味なものづくりの姿勢こそが、作品に宿る「クオリア」の核であることに気がついた。色や形を大きく変化させるのではなく、毎日制作を重ねる中で加えられる微々たる変更点の重なりが、最終的な印象の明らかな違いにつながっている。
一見プロダクトの様な均一さを持ちながら、手吹きガラス特有の柔らかな質感や、光の揺らぎ、不均等な美しさを魅せる作品。朝起きて、コップ一杯の水を飲むとき、その瞬間にささやかな美しさを添えてくれる。それは決して大きな声では主張しないけれど、使えばわかる、暮らしの中で定番になってゆく感じ。それが林 亜希子の目指す「ちょうどいい感じ」というクオリアなのだ。